Traveling to India
第十六幕
こんなインド人の物売りはイヤだ!
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前章までで書いたとおり、ミネたちはこのアグラの町に来るまでにいくつもの観光地を訪れてきた。そしてそれらの観光地では全て、旅行者目当ての物売りと出くわした。売ってくる物は大概、絵葉書やアクセサリーなど小さくて手ごろな土産物である。しかし、今回紹介するのはインド一の観光地と言っても過言ではないタージ・マハル、そこに出没する物売りも他とは一味違うのである。
アグラに着いて二日目の午前に、ミネと相棒はタージ・マハルを見に行った。タージ・マハルは城壁にグルッと囲まれており、見学するためには一つだけある城門を抜けなければならないため、この回りに物売りが集まっている。そしてこいつらは日本人観光者がやってきたと見るやいなや、わらわらと群がってくる。
印「(おい、日本人!絵葉書要らないか?)」
印「(ハロー?このブレスレットいいだろ?どうだ、彼女へのプレゼントに。)」
この物売りたちの海の中を、何も聞こえない振りをして突き進んでいくわけである。
と、ここまでは今までの観光地と同じなのだが、ここからが違った。物売りの呼び声は聞こえない振りをして人波をかき分けて歩いていたのだが、聞きなれない音が耳に飛び込んできた。
「パチーン、パチーン」
甲高く力強い、そこら中に響き渡る音。まるでサーカスのライオン使いが持っているムチのような音だ。しかし、こんなところでムチの音がするのはどう考えてもおかしい。その音の正体をこの目で見ようと振り返ると、
笑顔のインド人がムチを振り回していた。
これはヤバい!あいつ、どうかしている!なんで人ごみの中で武器を振り回しているんだ!これは関わらない方がいい!もし関わったら攻撃されるかもしれない!ミネと相棒は、半ば逃げるように城門をくぐった。
タージ・マハルを見ている間、帰るときにあいつに絡まれなければいいなぁとそればかり考えていた。城門は一つなので帰りも同じ道を通らざるを得ないのだ。一時間ほど中を回った後、ミネは意を決して門から出た。
ムチ男「(ハロー日本人!)」
やられた・・・。捕まってしまった。それに何故かこいつ、満面の笑みだ。絶対に頭がどうかしている。
ム「(おいおい、無視しないでくれよ。どうだい、このムチ。いいだろう?)」
「いい」ってどういう意味だ!? 音のことを言ってるのか?それとも攻撃力か?頼むから寄って来ないでくれ。怖すぎる。
ム「(ちょっと待ってくれよ、兄さん。これ、500ルピーでどうだい?)」
え!?売る気なの、それ!?
ム「(アグラはな、革製品の生産が盛んなんだよ。僕はすぐそこの工房でこれを作ってるんだ。どう?500ルピー。)」
もうちょっといい物作ったら? 財布とかさ、ベルトとかさ?ムチとか飛行機に持ち込めないと思うんですけど・・・。
もしインドのアグラでムチを購入し、無事日本まで持ち込めたという方がいらっしゃいましたら是非、メールください。
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第十七幕
そんなインドも今となっては懐かしい!!
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ミネたちはインドの首都、デリーに入った。今回の旅行の行程の最後の町である。インドでの時間も、いよいよ残り一日となった。
思えばこのインド旅行、ミネたちの隣りには必ず、観光客から金をかすめ取ろうとするインド人がいた。カルカッタでは、話しかけてくるインド人にただただビビっているだけで、新聞に載るような詐欺師に騙されかけたりもした。ブッダガヤでもボられる一歩手前だった。それも少しずつ慣れ、ヴァラナシあたりからはそういう奴らをおちょくる余裕も出てきた。アグラでは本当に楽しめた。ミネたちにたかって来たヤツらも、今では懐かしく思い出される。カルカッタのバンダナ、ブッダガヤのアショカ、ヴァラナシのボート漕ぎ、アグラのタクシーの運ちゃん・・・。こいつらに、ある意味鍛えられたからこそ、インドを楽しめるようになった自分がいるわけだ。もう感謝したいくらいだ。それは当然あいつらの意図したところではないのであるが。
さてミネたちはインド最後の日、この町にあるガンジー博物館へと足を運んだ。デリーは前述の通りインドの首都である。これまでに訪れた町とは違い、舗装された広い道路を乗用車がバンバン通るような大都会である。それゆえ、いわゆる観光地と呼べる所はこの町には少ないのだが、この博物館だけは外せない見所である。インドへ来たなら、「非暴力・不服従」を掲げたインドの父ついて考えるべきだ。
そして午後五時、ミネと相棒は博物館を出た。これからホテルへ帰って荷物を取り、空港ヘ向かう。フライトの時間は0時。荷物をまとめる時間やホテルから空港へはけっこう遠いことを考えると、あまりのんびりとはしていられない。タクシーを拾ってホテルに戻ることにする。
ホテルから空港までは、すでにプリペイドのタクシーを手配してあり、ホテルで待っていてもらっている。つまり、今から捕まえるタクシーとインドで最後の料金交渉になるわけである。これまで三週間、タクシーとの料金交渉には悩まされてきた。もう慣れたものなので失敗を犯すことは少ないが、やはり最後は完璧な形で締めたいものである。ボられるのは勿論、土産物屋を連れまわされるのも勘弁したい。最後に完璧な交渉をすることが、ある意味ミネのインド旅行の集大成になるわけだ。
博物館を出てタクシーを捕まえる。
ドライバー「(どこまでだ?)」
ミネ「(メイン・バザールの○○ホテルまで。)」
ド「(二人で50ルピーだな。さぁ、乗ってくれ。)」
最初は大体、約二倍の値段を提示してくる。新しい町に入るたび、交通機関の相場は調べるようになったが、最初はこれが分からなくて苦労したのだ。
ミ「(バカ言ってんじゃないよ、20ルピーだ。)」
ド「(そっちこそ冗談言うなよ。50だ。)」
ミ「(いや、20ルピーだ。そうじゃなきゃ乗らない。)」
ド「(分かった。30だ。乗れ。)」
ミ「(それじゃ別のを探すよ。バイバイ。)」
昔はここで交渉を放棄する振りをすることも知らなかったわけだ。こちらの提示が適正価格なら絶対に下げてくる。そういう意味でも相場を知っておくのは大事なのだ。
ド「(分かった。20だ。)」
ほらね?ミネも三週間でかなり成長したものだ。
そしてもう一つ、ここでドライバーに言っておくべきことがある。アグラでもそうだったように、タクシードライバーたちは土産物屋などに客を連れて行くことで、その店から金をもらえる。そのために何件も寄り道するようなドライバーがほとんどなので、最初に釘を刺しておくのが肝要だ。それなら乗せないと言われたら、車から降りればいいのだ。そうすればほとんどの場合、こちらの要求が通る。毅然とした態度を見せることが大事なのだ。
ミ「Hey! If you take us to any shop or restaurant, I will never, never pay money, OK?
(おい、貴様!もしも土産物屋だのレストランだのに俺たちを連れて行ってみろ。絶対に金は払わねぇぞ、分かったか!)」
・・・決まった・・・。
インドで鍛えられた英語に、たたみかけるような完璧な口調。この交渉、絶対に勝った・・・と思ったのだが、ドライバーから帰ってきたのは意外な言葉であった。
ド「(分かった。それじゃ、お前は一銭も払わなくていいから、俺の知り合いの店に連れて行くぞ。)」
!?
帰国後に調べて分かったのだが、デリーは店からタクシードライバーに払われる金が他の地域よりも高いらしく、こういうことを言ってくるヤツも珍しくないそうだ。
知らなかった・・・。この事実を知らなかったために、最後の交渉を成功で飾ることはできなかった。
「やっぱりインド人はイヤだ!」
土産物屋を連れまわされギリギリで乗り込んだ飛行機の中、思った。
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おわりに
ミネはインドから直接日本に帰らず、
タイに三日ほど寄ってから帰国しました。
そのタイの土産物屋に行ったときのことです。
ミ「(これ、いくら?)」
タ「(・・・)」
どうやら英語ができないご様子。
その店員はおもむろに電卓を取り出し、その品物の値段を打ち始めました。
結局その品物をミネは買ったのですが、店員と会話を交わすことはありませんでした。
インドの商売人のしつこさと貪欲さはお読みになった通りです。
なんとかして観光客から儲けようと日本語をマスターしてるヤツもいます。
そんなヤツらと比べて、電卓だけで会話するタイ人の淡白さに驚き、
「やっぱりインド人はイヤだ!」
と改めて思ったミネでありました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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