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2004年1月〜



1/7
好きな数字で


「ねぇ、好きな数字はいくつ?」
「・・・20。」
「んー・・・、じゃあ今何歳?」
「・・・18。」
「じゃあ、今までの質問に何個嘘ついた?」
「・・・うるさいなぁ!黙っててくれよ!」
「もう。そんなこと言わないでよ。」
「いったい何なんですか、あなたは?」
「そんなこと言わなくたっていいじゃない。ちょっと古いけど常盤貴子やってみたかったのよ。あなただって今年最初の運だめしをしにここに来たんでしょ?どうせ去年の年末ジャンボで大外れ、その負けを取り返しに、みたいな感じでしょ?・・・有馬記念かしら?まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね。
 私はね、貧乏な家庭に生まれたの。誕生日のプレゼントなんて生まれてこれまでもらったことなんてないし、両親も共働きだったから家に帰っても寂しくてね・・・。今ではバカなことだったと後悔しているけど、私はドンドン悪い女になっていったわ。人に言えないような仕事だってした。
 でもさ・・・、それじゃいけないって去年気が付いたの。私変わらなきゃ、って思ったの。今までの私は流されるまま、自堕落に生活を送ってきた。そんなダメな私に、今年はサヨナラするの。そして、運だめしにここへ来たわけ。
 やっぱり普通の宝くじだとダメだと思ったの。あれってさ、私にあるのは『買う』という意志だけでさ、どんな番号が来るかは決められないでしょ?それじゃあ、回りに流されて続けてきた私が変わろうとする年の最初の運だめしにはふさわしくないでしょ?やっぱり自分で番号選ばないとね?
 でもね・・・、怖気づいちゃったの。今までが今までだしさ、私の判断で正しいのかなって考えたら、マークシートを塗りつぶす手が止まっちゃってさ・・・。そしたらあなたのことが目に留まったの。私にとっての人生の転機に、偶然隣で同じようにマークシートを塗りつぶすあなた。・・・ピンと来たのよ・・・。私の人生、ゆだねてもいいかもなって思ったの・・・。ごめんなさい。」
「・・・奇遇ですね。私もね、ある意味これに人生かかってるんですよ。」
「そうなの!?」
「ええ。だからあなたの気持ちがわからないわけではない。」
「・・・うれしい。」
「でもね。自分の答えは自分で出すものだ。たまたま隣に座っただけの僕に頼るべきではない。」
「・・・そんな。」
「しっかりもう一年勉強して自分で答えを出せるようになってから、また来年受けたらいいじゃないですか・・・、
 試験官さーんっ!この人つまみ出してくださーいっ!」


1/13
新米リポーターの国立


実況「・・・さぁ、前半も残りわずかとなってまいりました。前半20分に中村選手の見事なミドルシュートが決まり、現在は1−0で国観がリードしています。・・・落ち着いて最終ラインでボールを回す国観、ここで長いボールを前線へフィードします・・・が、これはタッチラインを割りました。さて、ここで1点のリードを許している竹陽の応援席の様子を伝えてもらいましょう。竹陽側応援席の大田さん?」
大田「はい、リポーターの大田です。失点の際には一時静まり返ってしまった応援席ですが、今はみなさん立ち直って精一杯の応援を続けています。一回戦から勝負強さを見せ」
実況「ちょっと待ってください大田さん!さぁ、竹陽が国観の右サイドを切り裂いていく、ここでセンタリング!・・・しかしこれはキーパーが直接キャッチします。少し精度を欠きました。」
解説「そうですね。」
実況「それでは途中になってしまいましたが大田さん、続きをどうぞ。」
大田「はい、リポーターの大田です。失点の際には一時静まり返ってしまった応援席ですが、今はみなさん立ち直って精一杯の応援を続けています。一回戦から勝負強さを見せて逆転勝ちで勝ち上がってきたミラクル竹陽、その頑張りを信じて」
実況「ちょっと待ってください大田さん!先ほど相手センタリングをキャッチした国観キーパーがうずくまって動きません。」
解説「竹陽のフォワードと交錯したようですね。」
実況「そうですね。ああ、立ち上がりました。大丈夫なようです。時間は既に45分を回っています。ゴールキックでプレーが再開します・・・が、ここで前半終了のホイッスル。1−0、国観のリードで折り返します。それでは大田さん、続きをどうぞ。」
大田「はい、リポーターの大田です。失点の際には一時静まり返ってしまった応援席ですが、今はみなさん立ち直って精一杯の応援を続けています。一回戦から勝負強さを見せて逆転勝ちで勝ち上がってきたミラクル竹陽、その頑張りを信じて前半も残りわずかですが声援を送り続けます。以上、竹陽応援席でした。」
実況「・・・はい、大田さんのリポートでした。」
解説「最初の原稿をそのまま読んでしまいましたね。」
実況「そうですね・・・。CMのあとは前半のハイライトです・・・。」





実況「・・・さぁ、後半も20分が過ぎました。1−0の国観リードで折り返した決勝戦でしたが、後半13分に竹陽の桑原選手が素晴らしいフリーキックを決めて現在1−1の同点です。それでは同点ゴールに沸き返る竹陽応援席の様子を伝えてもらいましょう。大田さん?」
大田「はい、大田です。桑原選手のシュートが決まりますと応援席はみなさん飛び上がっての大喜びでした。そして、これまでの試合でも得点したときにはいつも歌っていた校歌を歌って盛り上がりました。ここからもう1点」
実況「ちょっと待ってください大田さん!国観の平山選手がボールを受け、スピードに乗ってそのままシュート!・・・ですがこれは大きく外れました。そして・・・、これはゴールキックですね?」
解説「いえ、ディフェンダーの足に当たっていますね。」
実況「ああ、そうですね。国観のコーナーキックですね、失礼しました。さぁコーナーキックです。・・・近いサイドに速いボールがっ、決まったー!ゴーーール!!竹陽を再び突き放す2点目!エースの平山が頭で決めました。素晴らしいゴールでしたね。」
解説「はい、コーナーキックも大変いいボールでしたね。」
実況「そうですね。それでは盛り上がっている国観の応援席を呼んでみましょう。国観応援席の田辺さん?」
大田「はい、大田です。桑原選手のシュートが」
実況「・・・大田さん?違いますよ、私が今呼んだのは田辺さんですよ!」
解説「どうしても続きが読みたかったんですね。」
大田「・・・を歌って盛り上がりました。ここからもう1点取って逆転・・・。」
実況「・・・大田さん?どうしたんですか、大田さん?何かしゃべってください、大田さん!」
大田「・・・もう2点取って逆転を信じる応援席です。以上、大田でした。」
実況「はい、一時はどうなるかと思いましたが、大田リポーターでした。」
解説「今回はいいリカバリーでしたね。」
実況「そうですね。それでは国観応援席の田辺さん?・・・」


1/20
ミスターかくし芸


「よっ、新婚さん!どうした?浮かない顔して。」
「あー。今度の慰安旅行の宴会部長押しつけられちゃってさ、かくし芸しなきゃいけないだろ?それで困ってんだよ。」
「お前結婚してからデレデレし過ぎだし、付き合いも悪くなったから、とばっちり食らったんだよ。しょうがない。俺も考えてやるよ。」
「サンキュ。何か今まで見たこともないようなのをできないかな、って思うんだけど・・・。」
「・・・あれは?テーブルクロスをガッて引き抜くやつ。簡単そうだぜ。」
「ああ、それ新春かくし芸でマチャアキがやったじゃん。」
「かぶったか・・・。じゃさ、筒の上に板乗せてバランスとるのは?」
「それもマチャアキがやってるよ。」
「これもダメか・・・。結局は笑いをとればいいんだろ?だったらさ、俺が相方やってやるから漫才でもするか?」
「ネタはどうするんだよ?」
「そんなにこだわるなよ、適当でいいんだよ。実は離婚しましたぁ、とか言ってれば盛り上がるさ。」
「だめだ。離婚ネタもマチャアキがやってる。」
「くそー、恐るべしミスターかくし芸・・・」


1/27
22歳だった私。


「ねぇねぇ、お母さん!教えてよぉー!」
「しょうがないわねぇ・・・

 阪神っていうプロ野球のチームは知ってるわよね?昔はとても弱いチームだったんだけど、あなたが生まれる前の前の年にね、そのチームが十八年ぶりに優勝したの。日本中が盛り上がってね、他のチームを応援している人たちも「あめでとう」ってあきらめるくらいだったの。その年から阪神はものすごく強くなっちゃってね、5年も連続で優勝したの。そしたら最初はあんまり怒らなかった他のチームもちょっと機嫌が悪くなっちゃってね・・・。 日本シリーズ、って知ってるかな?優勝したチームはね、もうひとつの優勝したチームと戦うの。それで日本一が決まっちゃうから、みんなそれに注目するの。でもその間、他の5チームはお休みでしょ?うちのお父さんは休みになったら大喜びするけど、野球の選手のおじさんはね、自分のチームが注目されないのは悔しいの。でもね、阪神にはかなわないの。だから他の5チームは考えたの、優勝したチームが日本シリーズをやってる間に5チームで日本中を回ってね、野球の試合を見せようって。そうしたら、自分のチームの宣伝にもなるでしょ?そしたら、普段はプロ野球なんて見られない子供たちがすごく喜んでね、その企画は大人気になったの。その後はね、そっちの方がいいからって、強いチームも優勝より下の五つを狙うようになったわ。今じゃ日本シリーズなんてほとんどの人が知らないくらいになっちゃったわ・・・

・・・モーニング娘はね、こんな感じで出来たのよ。」
「んー、全然分からないよ。」
「大きくなったら分かるようになるわ。
 懐かしいわねぇ・・・
 最終オーディションに負けて、
 でもデビューできる話が持ち上がって、
 みんなで日本中をCD手売りして回ったのよね・・・。
 ・・・みちよちゃん、元気にしてるかしら?
 『もののあはれ』を感じるわねぇ、平家だけに・・・」


2/3
合格漫才


「「はい、どーもー!」」

「どうぞよろしくお願いいたします。まぁ頑張っていきましょか。」
「いやぁ、それにしても寒い日が続いていますけどね。」
「ホンマですねぇ。まだ1月ですけど、次第に寒くなってますよ。」
「それにしても1月でこんなに寒いんですよ、みなさん。」
「うんうん。」
「2月はどんだけ寒いんでしょうねぇ。」
「・・・うん。うんうん、ホンマやねぇ。」
「でも雪降ったら、いろいろ楽しいことできますよねぇ。」
「ああ、そうですねぇ。例えばどんなことができますかねぇ?」
「雪だるま作ったり、雪合戦したり、あとたくさん積もったらかまくら作ったりできますねぇ。」
「・・・うん。うんうん、ホンマですねぇ。」
「でも、あの天気予報ですけど、いったいどこが出してるか知ってます?」
「ああもう全然分からん。みなさんに教えてあげて。」
「気象庁ですね。毎日お疲れ様です。」
「・・・うん。うんうん、ホンマやねぇ。」
「あれね、国土交通省の管轄なんですよ。」
「はぁ・・・。まぁね、こう寒いと大変な人たちっているじゃないですか。例えば受験生とかね。もう入試直前ですから、この寒い中みんな勉強してるんでしょうねぇ。」
「ああ懐かしいな。僕も三年前受験しましたよ。」
「何!?マジでか!?どんな大学受けたん!?」
「立命館っていう大学なんですけどね。」
「・・・うん。うんうん、よく知ってる。相方やもん。」
「でも落ちてしまいましてね。で、浪人中にこいつに誘われて漫才始めたんですよ。」
「ああ、懐かしいねぇ。」
「でもね、今の受験生のみなさんには本当に頑張っていただきたい。」
「いやいや、ホンマそうですよ。」
「だから今日はですね、受験に失敗した私から今年入試を受ける人たちにアドバイスを送ろうと思います。」
「ほー、それはいいですね。失敗して分かることありますもんねぇ。」
「まず丁度今くらいの時期に気をつけなきゃいけないことありますよ。」
「ほー、いったいそれは何ですの!?」
「やっぱり体調を崩さないようにすることですね、勉強に差し支えますので。」
「・・・うん。うんうん、まぁ当然やね。」
「でもプレッシャーで不眠症になる人多いやないですか?そうすると体も壊しやすいんでね、いい飲み物を紹介します。」
「ほー、そんなんがあるんですか!?ぜひみなさんに教えてあげて!」
「ミルクですね。カルシウムは眠気を誘う効果があるんですよ。」
「・・・うん。うんうん、俺もみのさんが言ってたの、聞いたことあるわ。」
「ホットミルクにするとさらに効果的ですね。」
「それもいつだったか、みのさんが言ってたねぇ。」
「あとね、一番気をつけなきゃいけないのが試験前日ですよ。絶対やらなきゃいけないことがあります。」
「いやぁ、何やろか!全然分からんわ!」
「試験会場の下見ですね。当日道に迷ったりすると大変・・・」
「コラッ!!ちょっと待て!!」
「何やの?」
「早くボケろや!俺ら漫才しに出てきてるんやろ?」
「そんな言わんといてや。」
「何言うてんねん!せっかく俺がボケやすいようにボケやすいように話盛り上げてるのにやな、なんでまともな話しかせんねん!!」
「え?だって俺たち受験生を応援する漫才してんのやろ?」
「そうやけど?」
「だから『オチ』ない漫才やってんのやんか。」
「・・・うん。うんうん、でもツッコミの俺は腑に落ちひんわ!!」

「「どうも、ありがとうございましたぁ!」」



2/10
FFF


ガチャ

「おかえり。遅かったじゃないの?十二時までには帰るって言ってたじゃない。」
「何だ、起きてたのか。今日は会社の同僚と飲み会だから遅くなるって電話しただろ?」
「何よ、その言い方!せっかく起きて待ってたのにそんな言い方しなくてもいいじゃない!それに明日も会社に行かなきゃいけないんでしょ?付き合いもあるだろうけど、もっと早く帰ってきなさいよ。」
「うるさいなぁ。僕は疲れてるんだよ。もう寝るぞ。」

 夫と結婚して15年。大学の時からの恋愛結婚。二人の息子も授かり、初めはそれなりに幸せな結婚生活だと思っていた。でもここ数年、夫が冷たい。二年前の昇進がきっかけだったのかもしれない。給料は増えて生活も安定し嬉しく思っていたが、その代わりに夫は忙しくなった。夫は家庭に仕事を持ち込まないようにと気を使ってくれていたようだが、帰りは遅くなった。夫婦の会話は少なくなり、私はそれを何とかして補おうと今日のような日も起きて待っているのだが、夫はいつもこんな感じである。休みだって家でゴロゴロして過ごしている。昔は息子と一緒によく外出したものだ。近くの公園で夫と息子のキャッチボールを見る程度だったが、私はそれで幸せを感じていたのだ。こんなはずじゃなかった。ストレスは溜まっていくばかりだった。


 そんな悩みと並行して、私はしばしば腹痛に悩まされていた。腹というよりは右のわき腹の辺りなのだが、それは日増しに強くなり、痛みで真夜中に起こされることもあるくらいになっていき、ついに近くの病院に行くことにした。多分ストレスによる単純な腹痛だと高をくくり、いい薬をもらおうと思って診察を受けた。しかし数多くの検査の後、医師から告げられたのは意外な言葉だった。

「胆石ですねぇ。」

 一瞬何を言われたか分からなかった。

「胆嚢にですね、胆石ができてます。小さなものだったら薬で治ることもあるんですけど、結構大きくなってるみたいです。幸い他の病気は合併していないようなので、あまり心配はなさらないでください。簡単な手術でしっかり治りますよ・・・」

 その後手術の詳しい説明を受けたが、あまり良く覚えていない。子供の頃から大きな病気はしたことがなかったので、手術が必要と言われたのがショックだった。


「なんだ、おまえか。会社にはかけてくるなって言っただろう?」
「そんなことよりねぇあなた、聞いて。今日病院行ったらね、胆嚢に胆石ができてるって言われて、今病院からかけてるの。手術をしなきゃいけなくなったわ。」
「・・・そうか。どんな手術なんだ?」
「お腹をちょっと切って、胆嚢を取り出すみたい。お医者様は簡単な手術で回復も早いって言ってたわ。」
「その手術はいつだ?」
「三日後。」
「・・・難しい病気なのか?」
「いいえ。手術すればしっかり治るみたい。」
「・・・そうか。その日は大事な会議が入っててな。」
「え!?あなた、私の手術に付き添ってくれないの!?」
「・・・ああ、簡単な手術なんだろ?本当に大事な会議でな。」
「・・・分かったわ。もういいわ。切るわね・・・」


 こうして今、私は病院のベッドに横になっている。隣では付き添ってくれていた息子が、疲れて眠ってしまっている。夫はいない。せめて前日の夜くらいは付き添ってくれるよう言ってみたのだが、例の会議の準備で忙しいらしい。でももういいのだ。どうせ来てくれないだろうとあきらめ半分で言ってみたのだ。今ごろ夫は私のことなど一切気にかけず、仕事に没頭しているのだ。本当に、本当にもういいのだ。

コンコン。ガチャ。

「・・・あなた!?どうしてここに?」
「ああ、やっぱりどうしても気になって様子を見に来た。今日はこの病室で寝させてもらうよ。さっき手続きもしてきた。」
「でも、明日の会議は?」
「休ませてもらうことにしたよ。というより、そのプロジェクトから降りたんだ。」
「え!?」
「手術の後すぐに完璧に治るわけじゃないだろ?おまえの体調がすっかり治るまでは僕が看病してやらないと。」
「そのプロジェクトは大丈夫なの?あなたが中心になって進めていたんでしょ?」
「もういいんだよ。有能な部下だから、上手くやってくれるだろう。」
「・・・あなた。」
「・・・おまえが最近イライラしてるの、分かってたよ。でも僕も仕事に追いまわされて疲れていたから、おまえのこと気遣ってやれなかった。本当にすまん。でも、おまえのことを全く考えてなかったわけじゃないんだ。でもこれからは少し暇になるから、おまえのこともう少し大事にしようと思う・・・。まあ同僚にかなり迷惑をかけたから、少し減給されちゃうかもしれないけどな。」
「・・・ありがとう。」

 手術前夜。普通なら不安で眠れないくらいの状況だろうが、私にとってはあんなに安らかな気持ちで眠りについた夜は久しぶりだった。


「どういうことなんですか!?妻の胆石が消えただなんて、そちらのミスじゃないんですか!?」

 とても不思議なことだった。手術直前に確認するために検査をしたら、胆石が消えているというのだ。

「いや、そういうことは考えにくいんですが・・・。初診の際のエコー検査では確かに胆石が確認されましたし、右わき腹の痛みなどの症候もありましたので。」
「しかし、手術前にもう一度検査したらその胆石が無かったわけですよね?」
「はい。しかしあれほどのサイズの胆石が自然に消えるなんてことは考えにくいんですが・・・、」
「だからあなた方の検査ミスじゃないかと言ってるんです!あなた方のミスで大病であると言われて、妻はかなりの心労を被ったはずです。それにもしかしたら、あるはずのない胆石を取るために、妻の腹を切っていたわけですよね?どうしてくれるんですか!?」
「あなた・・・。もういいの。」

 「あなたの優しさが分かったからもういいの」と続けるつもりが、少し照れるので言えなかった。


 結局病院側のミスだったということで、私は何事もなかったように退院した。その後調べてみて知ったのだが、胆石は中年の女性に多く見られるらしい。女性ホルモンの関係でそうなるらしい。私は医学のことはよく分からないが、夫との関係でイライラすることがなくなった今、もう二度と私に胆石が再発することはないだろうな、と何となく思う。


2/17
成金漫才


「「はい、どーもー!!」」

「どうぞよろしくお願いします。今日も頑張っていきましょか。」
「まぁ頑張っていかなアカンのですけど、僕ら去年の年末に賞取りまして。」
「そうなんです。でねぇ、まぁこんな話もアレですけど、お金もたくさんいただきまして。」
「いやぁ、若手にとっては大金ですからねぇ。」
「ホンマですよ。しかしあの賞金の目録をもらう時はドキドキしたねぇ。」
「ドキドキしたねぇ、縦列駐車。」
「ん!?」
「ドキドキしてるから手元が狂って後の車にぶつけちゃったりしてね、」
「・・・はいはい?」
「気が動転して慌てて前に出したらつい行きすぎて、前に停まってるおばあちゃんを引いちゃったりしてね。」
「どーゆーことやねん!なんで駐車スペースにおばあちゃん、ちょこんと座ってんねん!
 まぁでも縦列駐車は難しいですよねぇ。」
「難しいねぇ、煮物。」
「ん!?また無視?」
「あれおいしく作るの大変やんか?でもオカンが料理下手クソでやな、」
「・・・はいはい?」
「まずい煮物食わされてたわぁ、毎日。」
「毎日!?不得意な献立を毎日って、オカンどんだけアホやねん!
 まぁでも、おふくろの味ってのはおいしいもんですよ。」
「おいしいねぇ、給食。」
「ん!?真逆やないか?」
「給食っていつも牛乳付いてたやないすか?」
「・・・はいはい?」
「あれ飲んでたら友達が絶対笑わせてきてやな、俺は鼻から牛乳が出てきてメッチャ痛いしカッコ悪いんやけど、やっぱその頃から天性の芸人やったんやろなぁ、メチャいい気分でな。」
「そっちのおいしいかい!!意味違ってきてるやんか!
 っていうか、お前そんな小学生やったん?やらしいなぁ。」
「やらしいですねぇ、賞金のネタで漫才始める相方。」
「あら!?戻ってきた?ってオイ、コラ!!」
「何ですの?」
「何で俺のフリを、こう何度も無視すんの?」
「でもグルっと回って戻ってきたやんか?」
「そらそーやけど、何でそんな事するん?」
「だって俺ら、賞金の話してんのやろ?」
「そうやけど?」
「よく言うやんか?『金は天下の回り物』って。」
「・・・はいはい。でもお前がそんな自分勝手にボケたら、ツッコミの俺は忙しくて目ぇ回るさかいに、もう少し気ぃ回してや。」

「「どーも、ありがとうございましたぁ!!」」


2/24
嗚呼、麗しき乙女の人生


2月22日 とある高級ホテル

「・・・今日は、いいお天気ですね・・・。」
「そうですね・・・。」
「・・・すみません。僕、お見合いなんて初めてでして、ちょっと緊張してるみたいです。」
「そんなに緊張なさらないで下さい。私も緊張してます。フフフッ。」
「ハハハ、そうなんですか・・・。それにしても小田さんは18歳・・・でしたよね?そんなお歳でお見合いだなんて、珍しいですね。」
「はい。小さい頃から早くに結婚するのが夢だったんですよ。子供の頃に近所のお姉ちゃんの花嫁姿がすごく綺麗で、それ以来文金高島田に憧れてるんです。」
「・・・へぇ、文金高島田ですか。」
「本当はもうちょっと早くしたいくらいだったんですけど、なかなかご縁がある人に出会えなくて・・・。」
「あ、あはは。そうなんですか・・・。それじゃあ、ご趣味は?」
「はい。お茶とお琴を少々。」
「はぁ、なるほど。イメージ通りだ。」
「イメージ通り?」
「・・・ああ、はい。道理で立居振舞にもどこか品があるなぁと思っていたんですよ。それにお着物もよくお似合いだし。」
「ありがとうございます。毎日着物で過ごしておりますので。」
「・・・はぁ、毎日ですか。すごいなぁ。毎日着物なんて、僕だったら窮屈で死んじゃいそうですけど 。」
「ええ。小さい頃からそうして参りましたので、もう慣れました。今度は鈴木さんのことも色々と教えてください。ご趣味は?・・・」




2月23日 鈴木宅

「孝?昨日のお見合い、お返事どうします?」
「は?勘弁してよ、母さん。断るに決まってるじゃないか。」
「そうは言ってもお父さんの上司からいただいたお話だし、あまりいい加減なことはできないじゃない?」
「そりゃそうだけど、あんなに年の差がある人とお付き合いする気はないよ。」
「そうねぇ。でもその割には話も盛り上がってたみたいじゃない?」
「そんなことないよ。向こうに合わせるの、大変だったんだからさ。」
「でもさ、いい家の娘さんでしょ?逆玉じゃない?」
「うるさいなぁ。そんな気はないから、断っておいてよ。」
「でもね、こんなにいい逆玉の話なんてないからさ、少しお付き合いしてみたら?」
「もう、いい加減にしてくれよ!!」




2月24日 小田邸

「正子、そんなに気を落とさないで。」
「でも、久しぶりにお見合いをお受けしていただいたのに・・・。次の機会はいつになることか・・・。お母さん、ごめんね。」
「いいのよ。私のことは気にしなくて。」
「早く結婚したいのに・・・、来週になったらまた一つ年を取っちゃう。」
「ほらほら、そんなに悲しまないの。4年に一度の誕生日なんだから、もっと喜びなさい。」
「ごめんね、お母さん。早くいい人見つけて、孫の顔見せてあげるから。」
「いいのよ。そんなのは30年前にあきらめたわ。・・・ほら、元気出して。」


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今年も頑張ります!






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